この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
松子は意識なく眠り続けていた。
静と白河が交代で付き添い、看病している。
「静様、会社にご連絡したのですが、竜平様はご不在でございました。」
「白河さん、もういいのよ。あの方にわざわざ連絡なんてしなくても。」
「ですが… 奥様がご危篤ですのにお知らせしないと…。」
「あの関係は、終わったも同然なの。
あの方のお母さまから、暫く距離を置く様にはっきり言われたわ。」
「高瀬晴信様からはそのようなお話は聞いておりませんでした。
にわかには信じがたいのですが…。」
「白河さん…最初から、形だけの約束でしたからもう止めましょう。」
「最後に一度だけ、晴信様に確認してみましょうか?」
「それだけは止めて下さい。小松原があちら様に関わるのはご迷惑ですし、
私の中では…もう終わった事なので。」
先日、デモ教養講座中にトラブルがあって流派に迷惑をかけた事、
竜平の母親から距離を置いてくれと言われた事は白河には伝えていた。
しかも講座でのトラブルが家元の耳に入ったらしく静の立場は悪くなっていた。
「…それよりも、何かあった時のご本家への対応をお願いします。」
「はい、今後の事を確認してまいります。静様はこのまま奥様のお側に。」
「わかりました。」
松子の急変に静も動揺していたが、悲しむ前にやるべき事は山ほどある。
「静様、お気持ちしっかりなさって下さい。私がお側についております。」
「ええ…。ありがとう、白河さん。頼ってばかりでごめんなさい。」
本当は竜平に頼りたい。でも、頼る訳にはいかない…。
松子の死を迎えた時、自分はどうなってしまうのだろうか…
底知れない恐怖が静の心に生まれていた。