この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
10月末になって、ようやく帰国出来た竜平は
その足で小笠原邸を訪ねたが、大きな正門は閉ざされていた。
驚いた彼は静に何度か連絡したが、屋敷の電話にも携帯電話にも
彼女が出ることはなかった。彼女に何かあったのか、心配になる。
どうするべきか迷ったが、取り敢えず祖父に聞くのが早いだろうと、
丸の内にある高瀬コーポレーションのビルに急いだ。
帰国を知らせてもいないのに、いきなり会長室に竜平は乗り込んだ。
「じいさん、何か聞いてないか。」
「竜平か!いつ帰国したんだ!」
「少し前に。」
「取り敢えず、竜平ここでは会長と呼べ。」
会長室の重厚なデスクを前に祖父は苦々しく言った。
「日本に帰って直ぐ小松原家に行ったら門は閉まっていて誰も出ないし、
静まりかえって人の気配すらないんだ。」
祖父が一人だったのをいい事に、プライベートな話を吹っ掛けた。
「…お前は、本当に何も知らなかったのか。」
晴信の表情は暗い。
「ドイツでは仕事に追われていたから、静に連絡も出来なかった。
むこうからも何も言ってこなかったし、何が何だか…。」
祖父はイライラと動きながら話す竜平に呆れながらため息をついた。
「お前は…そこまで周りが見えていなかったのか…。」
静と連絡がつかなくて焦る孫を、残念そうに晴信は見つめた。
「契約が取れたそうだが…仕事は出来てもこれではダメだ。
大切な事は何もわかっていなかったんだな…。」
「俺がいない間にいったい何があったんだ?」
「松子さんが先月終わりに亡くなった。とっくに葬儀も終わっている。」