この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「全て、華宵流とあなた様のお立場をお考えになっての事と思います。」
「俺の立場…。」
「静様は、この記事を握りつぶす力をお家元にお求めになったのです。
屋敷を華宵流に売却し、流派を出ていくことと引き換えに。」
「借金返済と華宵流の名誉の為…俺のことまで気にしなくて良かったのに…」
静の思いに胸が痛む。どれだけ辛かったか。
「だが白河さん、手際が良すぎませんか?
わずかひと月で、屋敷の売却からスキャンダルのもみ消しまで…。」
暫くの沈黙の後、白河が重い口を開いた。
「これからお話しする事は、高瀬様の胸に留めておいて下さいませ。」
冷酷な声で白河が話し始めた。
「あなた様には大変申し訳ございませんが…、
私共は、家元や流派が何より第一と考えております。
松子様はお家元に逆らって京都をお出になられた方。静様はそのお血筋。
ですから、以前からこの小松原家をどうするかは悩みの種でございました。」
流石に竜平にも伝統社会の内側はわからない。
ただ、松子の死後、静がその荒波の中に
独りで立たされてしまった事は何となく理解できた。