この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「松子様がお倒れになるずっと以前から、先の事を考えておりました。」
「なるほど…」
「大層な価値のあるこのお屋敷をみすみす失うわけにはまいりません。
華宵流をスキャンダルで汚す訳にもまいりません。
松子様がご危篤になられてからは、いざという時に備えておりましたので。」
「そうでしたか…。もしかしたら、祖父が持ち込んだ俺達の婚約話も
あなた方にとっては茶番だったのでしょうね。必要なかったわけだ。」
「…私は、長く小松原家で働いて参りましたが、
華宵流本家お家元の部下でございましたから。」
「静は…。切り捨てられたのですね。」
「私からは、何も申し上げられません…。
全て、静様も納得されての事でございます。ただ、」
白河は一呼吸おいてから、苦し気に呟いた。
「私自身は、静様に自由を差し上げられたと考えております。
少々の財産もお持たせする事が出来ました。
もしあのまま一門に残っても、鳥籠が変わるだけでしたから…。」
車から降り際に、竜平に対し、白河が意味深に囁いた。
「高瀬様、本日は庭師が参りますので、くぐり戸は開いております。」
ゆっくりと屋敷を見ながら、白河は去っていった。