この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
絹の海に、二人は溺れた。
障子越しに柔らかな日が差し込み、部屋を淡くオレンジに染めても
二人はお互いの身体を貪るように愛しあっていた。
もう二度と触れる事が無いかのように惜しみなくさらけ出して。
何度か果てた後、竜平は束の間だけ意識を手離した様だ。
気が付くと、陽は随分傾いて薄暮の時間が近かった。
静の姿はなかった。
焦って身づくろいをした竜平は、障子を開けて広縁に出た。
そのまま裸足で庭に走り出る。
池の向こう側に、静がいつも佇んでいた桜の古木があった事を思い出して
そちらに足を向けると、老木の側に静がいた。
桔梗を染めた淡い紫色の小紋をキチンと身に付けて、空を見上げている。
「静!」
静は振り返って竜平を見つめた。そして、ゆっくり彼に向って頭を下げた。
優雅な仕草だった。
「待ってくれ、話がしたい。すぐそっちに行く。」
静はゆっくりと首を横に振った。
そして、背を向けて竜平から去っていった。
竜平は追うことをしなかった。
真っ直ぐに背筋を伸ばした静の後ろ姿をただ…見つめていた。
あれ程の愛を交わしたと言うのに、静は自分をはっきりと拒否したのだ。
流派を捨ててまで、竜平の立場を守ろうとしてくれた静。
その気持ちを無視してまで追いかける事は、彼には出来なかった。