―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
好きになっていた
レッスンが終わってスクールを出たところで、相変わらず隙のないメークできめた金子さんから呼び止められた。
「今終わったところ?」
そうだと答えると、久しぶりだからお茶しましょうよと半ば強制的に近くの喫茶店に連れて行かれた。
個々の席はすべて頭より高いしきりに覆われていて、密室感を醸し出している。
他の席の声があまり聞こえずとても静かだ。
本来なら落ち着くのかもしれないが、こうした狭い空間に金子さんと二人で向き合っているのは圧迫感がある。
「ねえ、龍道コーチ、結婚するって知ってた?」
アイスコーヒーをすするストローを唇から放し、そういうと探るような視線を透子に投げてきた。
「え、そうなんですか?」
龍道コーチは見合い話から逃げていたはずだ。
そのために透子と1か月付き合うなどという提案まで持ちかけてきたのにどういうことだろう。
1か月を待たずに出張を理由にデートが打ち切られたのは、急に結婚することになったからなのか。
胸がきりきりと疼いた。
「ただね、年増の女に付きまとわれて、むげにもできず困ってるんだって。龍道コーチ、優しいから」
「そうなんですか」
そんな話が龍道コーチから出たことはないが、それってもしかしてあなたでは、と透子が思ったところで金子さんが「で、その女ってあなたでしょ」と透子の鼻を指差した。