―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

「どうして私が」

ピンクの口紅でてらてらした金子さんの厚ぼったい唇が得意げに動き出す。

「実は私、龍道コーチの遠い親戚なのよ。で、いろいろ話が耳に入るわけ。水之さん、まさかコーチとの将来なんて考えてないわよね。ほら、あれだけの家の跡取りだといろいろ大変なのよ」と、金子さんは大量のアイメークで1.3倍に拡大した目を細め、さらに「テニスなんて今は良くてもブームが去ったらすぐぽしゃりそうじゃない? そのためにも財力のある家のお嬢さんと結婚させたいとか、いろいろね。もういいお相手が見つかったらしいから間もなく結婚するだろうけど、龍道コーチがうだうだしているからご両親がイライラしているんだって。まあもう少し遊びたいっていうコーチの気持ちもわかるけど」と言って、透子に笑いかけた。

とてもフレンドリーな口調に絡めて太い棘を差し込んでくる。
まあ棘を刺すために久しぶりにお茶に誘ったんだろうけど。

テニスが今ブームだとは思わないが、透子にも社長の息子であれば結婚は家と家とのものでもある、ということはわかる。
龍道グループの御曹司の結婚ともなればなおさらだ。
龍道コーチとの将来を夢見るなんてとんでもない。
それでも「遊び」とか「まもなく結婚」という情報は透子の胸を突いた。
だいたい自分より年増の金子さんに年増呼ばわりされる覚えも龍道コーチに付きまとった覚えもない。

「私のことじゃないと思うけど」
「でも、スクールで噂になってるわよ」

透子の戸惑った顔に満足したのか、金子さんは「じゃあここは私がごちそうするわね」と、テーブルの端に置かれた伝票をつかんで去っていった。
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