―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
翌日、定時ちょうどに仕事を終えて帰る支度を始めると隣席の田淵がパソコンから透子に顔を向け、帰るの?と聞くので「うん、帰る」と答える。

「じゃあ僕も」

パソコンを閉じる田淵を待ちながら「私、ドラゴンウエイ辞める」と言うと、田淵は別段驚かず「じゃあ僕も」、とまた同じように答えた。

「どうして田淵君までやめるのよ」
「だって透子さんにつられて入っただけだし。僕、上手いから別に教わる必要ないし」

引き留める理由もないので、そのまま一緒に退会届を出しに行くことにした。
退会手続きはメールや電話ではできないという説明は最初に聞いていたので面倒だが仕方ない。
マヤさんにごねられたら困るなと思ったけど、事情を知っているマヤさんが透子を引き留めることはないかとすぐに思い直した。
龍道コーチの結婚が決まったなら透子が辞めてくれた方が気は楽に違いない。
田淵は辞める理由を聞いてこない。
龍道コーチとの交際が終わったことに関連していると思ってそっとしておいてくれているのだろう。

受付にはめずらしくマヤさんがいなかったので、何も問われることなくあっさり手続きを終えた。

帰り、久しぶりにいつものビアバーに2人で立ち寄った。









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