―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき

注文した皿がいくつか運ばれてきて、食欲をそそるいい匂いが湯気と共に立ち上がる。
テーブルに重なった取り皿と箸を配りながら、龍道コーチの腹がまたグルルルと鳴った。
目の前の肉団子を3個立て続けに口に放り込み、口の中が落ち着いたところで龍道コーチはことの成り行きを推測した。

金子さんは自称、龍道家の親族だという。
といっても叔父さんの元奥さんの再婚相手の妹の旦那の姉の……と果てしなく遠い関係で、親族というには無理がある。
しかしそれをたてになんだかんだと龍道家に接近してくるのだという。
今回は自分の姪の見合い写真を送りつけてきたそうだ。
理由をつけて写真を返送すると、すぐに社長秘書に連絡が入った。
会うだけあってくれないかとあまりのしつこさに秘書が「もう好きな方がいらっしゃるようなので、無理ですから」とあしらったが、金子さんは引かない。
それよりもここからが金子さんのすごいところで、「そういえば社長がこの間、新君が最近変な女に引っかかっているって言ってたけど、その人かしら? なんかとても年が若いちゃらちゃらした人だとか……え、変じゃない? 年上? 飾り気がない? じゃあ、大学で一緒だったあの方かしら? ちょっとふっくらした……え? すらっとしていてテニスで知り合った?」と、あてずっぽうを重ねて秘書から情報を引き出し、そこからその女は透子ではないかと見当をつけたのである。

金子さんの電話からようやく解放された秘書は、少ししてからようやくもしや自分は誘導尋問にひっかかり、いらないことをしゃべってしまったのではないか、と慌てて社長(龍道コーチの父)に謝ると、「べつに本当のことだから気にすることはないよ」ととがめることはなく、「それより金子さんていったい誰だ? 私が新の女性についてこぼしていたなんてそんなでたらめを言ってけしからんな」と立腹し、そっちは大分警戒の色を見せたという。
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