―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「田淵君が私のことを?」

まさか好きでいてくれたなんて考えたこともなかった。
そんな――。
今まで何も気づかず田淵の優しさに甘えるだけ甘えていた自分の鈍感さが重い鉛となって胸に沈んだ。

「私、鈍すぎる」
「今頃気づいたんだ」

頷く代わりに透子はまた深く息を吐き出し、自分のことばかり考えて田淵の前で泣いたことを恥じた。
うなだれる透子の手を引いて、龍道コーチはまた歩き始めた。

「うん。私って本当にアホだと思う」
「でも大丈夫だよ。彼には強力なカンフル剤作動中だから」
「カンフル剤?」

龍道コーチの目が穏やかに笑っている。

「実はマヤがチャンスとばかりに現在、田淵さんに猛アタック中。あいつ、田淵さんのこと好きだったんだよ」
「え、マヤさんが田淵君を? あ、でもそしたら泉コーチは?」
「やつがなんだよ」
「私の勘では泉コーチってマヤさんのことを好きだと思うんだけど」
「はい?」
ちょうど赤い鳥居をくぐり、社殿に続く長い階段の前で龍道コーチは再び立ち止まった。

「君の鈍さと見当違いの思いこみ、勘の悪さは犯罪の域に達しているな」

龍道コーチは透子の両頬を指でつまんで左右に引っ張った。
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