―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
龍道コーチは神妙な顔で「とんでもなく鈍い透子さんへ」と切り出した。
唐突に初めて下の名前で呼ばれ、透子は緊張して次の言葉を待った。

階段を囲む緑の中からセミの声が響いてくる。
暑さに挑むかのような力強い声。
夏が終わる前に命をつなごうと、切実な使命のために鳴き続けている。

「で、鈍い透子さんへ」
「そこ、何度も繰り返さなくていいから」
「透子さんを見つけたときから、いやこの階段で出会ってからずっと透子さんのことが好きだった」
「うそでしょ!」

再び衝撃の波が押し寄せる。
驚いて後ずさった拍子に透子は階段を踏み外しかけ、体が後ろにゆらりと反った。
また落ちると思った瞬間、透子の腕を龍道コーチが素早くつかみ、気づけば龍道コーチの胸の中にいた。

「おい、またここで転げ落ちる気かよ。縁起悪いだろ」

透子は龍道コーチの腕の中で顔を上げた。

「だってびっくりして。自分で言うのもなんだけど、あのシチュエーションで特に目を引くわけでもない私を好きになる理由がわからないもの」
「理由とかないよ、忘れられなかった。再会してからは好きな理由がどんどん増えたけど。まあタイプってことかな」
「私がタイプ?」

ますます驚きだ。

「ああ、一目ぼれしたんだからそういうことだろ」

他人事のように言い、龍道コーチはまだなにか言いたげな透子の唇をキスで封じた。
閉じた瞳の奥でドキドキと震えている自分のハートが見えるようだった。
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