―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
唇が離れ、透子はゆっくり目をあけた。
頬が熱い。

「透子さんは俺のこと好き?」

動くとまた唇が触れそうだったので、少しだけ顎を引いて頷いた。

「どこが? 俺のどこが好き?」
「今、ここで話すの? 神様の通り道で?」

人が少ないと言っても境内への階段の途中だ。
龍道コーチの腕はまだ透子の背中に回されている。
そんな状態で立ち止まっているのは透子としては落ち着かないのだが、龍道コーチはまったく気にしてない。
それどころか「ちょうどいい、神様にも聞いてもらおう」と透子の目を覗き込み、
「そういえば喫茶店で親父から俺のどこが好きかと聞かれたとき、答えられなかったよな。俺は透子さんを好きな理由を即答したのに」と、甘いキスから一転、透子を咎める。

わずかに吹いていた風が止み、日差しは益々強くなっている。

「よく覚えているわね。あのときはまだ偽装彼女だったし、突然のご家族との対面で緊張していたし」
「じゃあ今なら言えるだろ。言ってよ」

透子は少し考える。

「そうね……そういう子供みたいな素直なしつこさとか」

龍道コーチの眉が不満そうにキュッと上がった。

「なんだよそれ。ほかには?」
「チャラそうで本当は誠実」
「それから?」
「意地悪そうだけど優しい」
「〇〇そうって必要か? まあいいや、それから?」
「仕事もできるし」
「それからそれから?」
「一緒にいるととても楽しい」
「それから?」
「まだ言うの?」
「まだまだ」
「つまり……」
「つまり?」
「全部好きってこと」
「はい、よくできました」
くしゃりと笑い、龍道コーチは透子をもう一度強く抱きしめた。
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