―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
次のクラスの生徒、もしくはコーチがやってくる時間だった。

普段は開けっ放しの扉を閉めたのは龍道だろう。念入りに鍵までかけたようだ。

「あ、やばい。とりあえず電話かショートメール送るから。水之さんの入会申し込書の情報見るけどいいよね。あと水之さんはこれを探してたってことにしておいて。じゃあね」

龍道コーチは手にしていた振動止めをピュッと遠くに放り投げるとドアを勢いよく開けて出ていった。

透子は一応生真面目に少しの間、探すふりをしてから落ちている振動止めを拾い、コートを出た。
龍道コーチはまだ生徒たちと話をしていて、中には中級クラスの金子さんもいた。
しらっと通り過ぎようと思ったが、金子さんが透子を見て、あら、という顔をした。

「水之さん、今までコートにいたの?」
細めた瞳の芯は、この間と同じように笑っていなかった。

「レッスンが終わったら振動止めが取れちゃってて、探してたんです。この振動止め、すぐはずれちゃうんですよ」
黄色の振動止めを見せた。

「ああ、それユニスポーツでラケット買うとついてくるやつでしょ。取れやすいのね」

やり過ごせたとほっとしたら、「龍道コーチと一緒に探していたの? 扉に鍵がかかっていたけど」と龍道コーチと透子を交互に見た。
ほかの人たちはじっとり透子だけを疑いの目で見つめている。
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