―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「ねえ、もしかして田淵君て、ゲイ?」
田淵はパスタを運ぼうとしていたフォークを宙に浮かせ、口を開けたまま動きをとめた。
「え?」
しばし透子を見つめ、それからやっと言葉が脳に届いたかのように、「そんなセンシティブな質問、そんな唐突にする?」と言って、パスタをからませたまま止めていたフォークを再起動させた。
顔を傾けた拍子に田淵の前髪がサラッと額に落ちる。
「ごめん。いけなかった?」
「雑すぎるでしょ。ま、水之さんのその悪意のないガサツ感、僕は嫌いじゃないからいいけど。で、だとしたら?」
「いや別に」
「なんだよ、どうでもいいのかよ、じゃあなんで聞くんだよ」
田淵は苦笑する。
透子は普段「こういったこと」にうとい。
「こういったこと」とは、たとえば誰かと誰かが付き合っているとか、不倫しているとか、整形しているとか、つまり他人のどうでもいいこと、でも多くの人が気になって仕方がなくて、陰でうわさするようなことだ。
だから珍しく勘が当たったことがちょっと嬉しくて、「だって」と続けた。
「田淵君、おしゃれで優しいじゃない? それにモテるのに会社の女の子にあんまり興味なさそうだし」
「それだけ? そんな奴、他にもたくさんいるでしょ。だいたい俺が優しいのは……」
「いない」
田淵の言葉を遮って透子は断言した。
「それは水之さんの周りにいないだけじゃないの?」
「え、そうなの?」
「知るか」
田淵は面倒くさそうに言い、それから急に何か思いついたように透子の鼻先までグイっと顔を寄せ、「これ、秘密ってことで」と、テーブルの上の透子の手を握った。
黒く光る瞳が間近に迫る。
田淵がゲイだと判明しても、急に接近されてどきりとしながら透子は「もちろん、誰にも、いわない」と、田淵に息がかからないよう注意しながら答えた。
田淵はパスタを運ぼうとしていたフォークを宙に浮かせ、口を開けたまま動きをとめた。
「え?」
しばし透子を見つめ、それからやっと言葉が脳に届いたかのように、「そんなセンシティブな質問、そんな唐突にする?」と言って、パスタをからませたまま止めていたフォークを再起動させた。
顔を傾けた拍子に田淵の前髪がサラッと額に落ちる。
「ごめん。いけなかった?」
「雑すぎるでしょ。ま、水之さんのその悪意のないガサツ感、僕は嫌いじゃないからいいけど。で、だとしたら?」
「いや別に」
「なんだよ、どうでもいいのかよ、じゃあなんで聞くんだよ」
田淵は苦笑する。
透子は普段「こういったこと」にうとい。
「こういったこと」とは、たとえば誰かと誰かが付き合っているとか、不倫しているとか、整形しているとか、つまり他人のどうでもいいこと、でも多くの人が気になって仕方がなくて、陰でうわさするようなことだ。
だから珍しく勘が当たったことがちょっと嬉しくて、「だって」と続けた。
「田淵君、おしゃれで優しいじゃない? それにモテるのに会社の女の子にあんまり興味なさそうだし」
「それだけ? そんな奴、他にもたくさんいるでしょ。だいたい俺が優しいのは……」
「いない」
田淵の言葉を遮って透子は断言した。
「それは水之さんの周りにいないだけじゃないの?」
「え、そうなの?」
「知るか」
田淵は面倒くさそうに言い、それから急に何か思いついたように透子の鼻先までグイっと顔を寄せ、「これ、秘密ってことで」と、テーブルの上の透子の手を握った。
黒く光る瞳が間近に迫る。
田淵がゲイだと判明しても、急に接近されてどきりとしながら透子は「もちろん、誰にも、いわない」と、田淵に息がかからないよう注意しながら答えた。