―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
妙なアクシデントでマヤさんの車で彼の家まで行くことになってしまったが、それも透子のせいではない。
とにかく誤解されてはたまらない。

「あ、あれは――」
「いきさつは聞いた。水之さんが彼の昔の恩人だってことも」
「えーっと、私、マヤさんと龍道コーチのこと誰にも言いませんから」と小声で言って、硬く頷いて見せた。
大丈夫、周囲には誰もいない。

「私たちのこと?」
「龍道コーチがマヤさんとは近しい間柄だけど付き合えないって言ってたから」
「間違ってはいないけど」

透子はもう一度こくりと神妙に頷き、真面目な顔でさらに続けた。

「2人、お似合いなのにワケありの恋なのよね。大丈夫、私、口固いから」

次の瞬間、目の前からマヤさんが消えた。
と思ったらカウンターの下にしゃがみ込んで腹を抱えて笑っていた。
笑う場面ではないのにひーひー悶えている。
さんざん笑ってから立ち上がったマヤさんは「エクステ取れそうだよ」と、溢れた涙を指で拭った。
そして「そりゃ私たち似合うよ、実際似てるから」と、わけわからないことを言ってまたひくひく笑いだした。
透子があっけにとられていると、マヤさんはまだ笑いながら壁の時計を指した。
見るとレッスンが始まるまであと3分しかなかった。

「やばい!」

透子は名札を握りしめ、更衣室に走った。
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