―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「で、これからぼくらはパーティにでも行くわけ?」

ちゃかした田淵に「正解。田淵さんにはこれ貸すから」と、マヤさんはアルマーニのダークブルーのテーラードジャケットを差し出した。

白いTシャツと紺のコットンパンツのラフな格好がぐっとフォーマルになった。
お、いいね、と田淵は何の疑問も抱かない様子で満足げに笑顔を浮かべた。

「ところでここどこ?」

車のまま門をくぐったので表札も見ていない田淵は部屋をきょろきょろ見回している。
マヤさんがワンピースの裾をひらひら揺らしながら「私のうちよ」と答えるので、龍道コーチの家だと思っていた透子の方が驚きの声を上げた。

「えっ!」
「なんでそんなに驚くの? じゃなきゃ勝手にずかずか入るわけないじゃない。住居侵入罪になっちゃう」

でもそれは、家にも自由に出入りできるほど龍道コーチと訳ありの親しい間柄なのだと勝手に思っていた透子は頭が混乱した。

「え、というとは……」
「ということはなに?」
「もしかして、コーチと結婚しているの?」

だけどそれだと、親しいけれど付き合うことはできない、という龍道コーチの言葉とつじつまが合わないなと気づいて透子は首をひねる。

「やだ、それじゃ近親相姦になっちゃう」

あ。

透子はマヤさんの面差しが誰に似ているのかようやく気付いた、と思ったら田淵が「もしかして、ここは龍道家? 龍道コーチの妹?」と、マヤさんを指した。

「さすが田淵さんは鋭い」

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