―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
龍道コーチの初級クラスの生徒は透子を入れて16名。コートを2面使用し、大学生のように若く見える泉コーチもアシストに入る。
平日の昼間という時間帯のせいか、生徒は子育てもひと段落し、時間にもお金にも余裕がある40代から60代までの主婦が多い。

男性コーチを意識してのことなのか、それともいつもそうなのか。生徒たちは皆長いエクステにアイライナーで目元を強調、お肌は毛穴から出る汗さえも止めそうなほどファンデーションで厚くカバーし、これから運動をするとは思えないほど丹念にメークが施されている。体形と年齢に合っているかは別として、皆競い合うようにブランド物のウエアを着用している。

ウニクロのTシャツにトレーニングパンツ姿の透子は一人だけ部活をしている学生のようだ。照れるほどに浮いているが、透子自身は気に留めず、それより「わお、50歳超えて生足にスコートかあ」と、感心している。

龍道コーチもサブの泉コーチも生徒への接し方がとてもソフトだ。
「もっと前にでてくださいね」「下から上に振りましょう」「うん、いいですねー」と、感じの良い笑顔を絶やさない。気持ち悪いほどに。

それに対して生徒たちは「はーい」「やったあ」「うーん、どうしてもうまくいかなの。どうしてかしら」などと年頃の娘のようにラケットを抱えて腰をくねっとひねらせ、愛らしい声音で応える。
こちらも愛らしすぎて気持ち悪いほどだ。

イツキコーチのクラスをブルーに例えたら、このクラスはラムネの人工的なピンク色だな、などと透子は考える。


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