―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
レッスンが終わると透子はコーチたちにまとわりついているほかの生徒たちの間を縫うようにしてロッカールームに戻った。
中には一人、ちょうどこれからレッスンに出るらしき女性がいて、「もしかして新しく龍道コーチのクラスに入った人?」と声をかけてきた。

40代後半に見えるが、エレッセのピンクのショートスリーブのシャツと白いスコートがさまになっている。金子と書かれた名札には青のラインが入っているので中級クラスだ。
オレンジが初めてクラス、赤が初級、ピンクが初中級、そして青は中級と色分けされている。

「はい」
「私も1か月だけだったけど最初はこのクラスにいたの。もしかしてあなたも龍道コーチのファン?」
「いえ、別にそういうわけじゃ――」

金子さんはちょっと顔を近づけてきて、「このクラス、龍道コーチに夢中な人が多いから気をつけてね」と、誰もいないのに声を潜めた。
そこに龍道コーチの生徒たちが次々戻ってきて、金子さんはじゃあね、と目だけで合図して、ロッカールームを出ていった。

透子もさっさと着替えをすませ、まだテニスウエアのままでおしゃべりを続けている女性たちに一応お疲れさまと声をかけて表に出る。
受付で会員証をピックアップする際、他に誰も人がいなかったので、暇そうにしていたマヤさんに声をかけた。

「あの、ちょっと聞いてもいい?」
「なんでしょう」

表情も艶々の茶髪も揺らすことなく、マヤさんが抑揚なく答える。

「龍道コーチに夢中な人が多いから気を付けてね、って今忠告されたんだけど、何に気をつけるの?」

マヤさんが顔を寄せてきて、髪からシトラス系の香りが散った。

「だから言いましたよね、嫉妬ですよ」
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