―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
時間かかりすぎだよとコーチがぼやき、マヤさんが噴き出した。

「意外と、誠実かもしれないです」

高校生だった龍道コーチが自分の分も賽銭を入れ、頼んだ通りお願いをしてきてくれたことを今さらながら思い出したのだ。

「意外と、とか、かもしれない、は余計じゃないかな」

「でも断言するのはちょっと」

「しろよ。誠実だよ」

「あと、よく言えば気取ったところがない」

「ちなみに一応聞くけど、よく言わなければなんなんだよ」

「がさつ? レッスン中に球をぶつけてくるとか、扱いが乱暴だし」

「新、生徒さんに乱暴なことをしたらダメだろう。パワハラで訴えられるぞ」

龍三がりりしい眉毛を吊り上げるので、
「それは私に対してだけなので、大丈夫です。他の生徒さんには懇切丁寧に優しくされていますから」と透子はフォローした。

「水之さんがへたくそだからだよ。コーチとしての愛情だ。」

「ほかにも下手な人、いると思うけど」

「いや、ダントツ下手くそだ」

そう断言されて透子は言葉に詰まった。
否定できない。
目が潤むほどしょんぼりしてしまった透子を「そんなことないよ。ほかにもっとへぼい人いるじゃない」と、珍しくマヤさんがフォローしてくれた。
「新ちゃん大人げないよ」と妹から諭された龍道コーチはふんと横を向いた。
益々大人げない。
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