―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
仲がいいのか悪いのかよくわからない透子たちのやりとりを龍三&桜子夫妻は微妙な面持ちで見ていた。

「じゃあさ、新ちゃんは水之さんのどこが好きなの?」
マヤさんが聞く。

本人がいる前で聞くことだろうか。
まるで趣味の話でもしているみたいに。
透子はぎょっとして、マヤさんと龍道コーチを交互に見た。
マヤさんは本当に趣味の話でもしているかのよう(たとえば、ヨガのどこが好きなの~?みたいな)な、大した質問ではないような表情だった。
きっと龍道コーチは答えに詰まるに違いない、と思ったら「優しい。誠実。真面目。抜けているところが和む。一緒にいると安心する」と即答したので透子はまたギョッとした。

「さすがパーフェクトな回答だね」

マヤさんが嬉しそうに親指を立てる。
透子は恥ずかしくなってうつむいた。

思ってもいないことをこれだけすらすら口からでてくることに感嘆しつつ、そうか、真面目に考えることはないのだ。
優しくて、誠実で、男気があって、賢くて、とか、龍道コーチのように適当に褒め言葉をつらつら並べればよかったのだ。

「どうやら新の熱量の方が多いみたいね」
桜子があきれたように言う。

自慢の息子であろう美しい長男が熱を上げているのが、まさかこんな平凡な年上の女でがっかりしていることだろう。
そう思うといたたまれなくなって、透子は、彼はただ目の前のお見合いから逃れたいだけなんです、と心の中で弁解しながら「そんなことはないんです、すみません」と頭を下げた。
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