―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「なんで水之さんが謝るのよ」と言いながらマヤさんはテーブルの上のスマホに目を止め、「やばい、もう行かないと」と、父母を急き立てた。
話が尻切れトンボ状態のまま、3人はバタバタと喫茶店を出ていき、6人掛けのテーブルに透子たち2人が残された。
彼女の振りをしただけなのに、どうしてこんなに緊張するのだ。
透子はふうと息を吐きだした。
横に座る龍道コーチは小皿に盛られたクッキーに手を伸ばし、ポリポリと平和な音を立てている。

「おいしいよ」

透子の口に小ぶりの丸いクッキーを押し込んでくる。
優しい甘さとバターの味が口の中に広がる。

「うん、おいしい。て、それより」

「急に頼んで悪かった。ごめん」

「どうして私と付き合うなんて嘘をついたのよ。お見合いを逃れたいなら、他に好きな人がいるとか言えばすむでしょう」

「それが済まないんだよ。いるって言えばすぐ紹介しろっていうし、紹介できる彼女がいないなら見合いをしろってうるさい。で、とうとう昨日のパーティに候補者を呼んできちゃったんだよ」

「だからって……。あ、私だったら御曹司の彼女には不釣り合いだし、結婚話も進まないだろうから時間稼ぎには都合がいいみたいに思ったのね。そのためにドレスまで用意して呼んだわけ? すぐ都合がつきそうで、誘われたらほいほいパーティに来るだろうと思ったとか。実際、ホイホイ行っちゃったけど」

「すごい分析力だけど違うな。パーティには単に来てほしかったから誘った。候補者を呼ぶなんて知らなかったし」
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