―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
次の週、レッスンが終わってスクールの外に出たところで金子さんに会い、お茶に誘われた。
時間もあったし喉も渇いていたので、金子さんの後について駅ビルの中にあるカフェに入った。
席に着くなり金子さんは向かいに座る透子の方にグイっと顔を突き出し「どーお、あのクラス?」と聞いてくる。

「華やかですねー。イツキコーチのクラスとは全然雰囲気が違う」
「あそこってさ、イケメンぞろいでしょ。イツキコーチのクラス以外はみんなコーチ目当てだもの。女っけムンムンなのよお」

そういう金子さんのムンムン度もなかなかのものだけど、あえて言及はしなかった。

店員がなかなか注文を取りに来ないので、金子さんは手をひらひら振ってウエイトレスを呼んだ。
メニューを見ずにアイスカフェラテを注文するので、透子も慌てて同じものを頼む。

「で、水之さんはどうしてあのスクールを選んだの? やっぱりコーチ目当て?」
「いえ、会社の福利厚生で割引がきいたので」
「へえー、そんなのあるの? いい会社にお勤めしているのね」

会社の名前を聞かれたので答えると、すごーいと感心された。
名前は知れ渡っている会社だけど別にすごくはない。凡庸な学歴とキャリアの透子でも入れる会社だ。

「金子さんはあのスクール、長いんですか?」
「まだ1年半くらい」
「それなのに中級? すごいですね」

初めてクラスからようやく初級に上がった透子にとって、中級レベルは果てしなく上ランクの位置にある。ちなみに初級の上は初中級、さらにその上が中級である。

「高校、大学のときにソフトテニスをやってたのよ。でもずっとやっていなかったら、とりあえず初級から初めたらすぐ中級になっちゃった」

学生時代にテニスを少しでもやっていた人と未経験者との差は大きい。
中高生でバレーボール部に所属していた透子は、なぜテニス部にはいっておかなかったのかと今さらながら悔やんだ。
< 8 / 130 >

この作品をシェア

pagetop