―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
ゆっくり距離を縮めていけばいいとのんびり構えていた。
それなのに、まさか龍道コーチのような男が自分より先に透子に近づくとは思ってもいなかった。

イケメンコーチがいると聞き、気になって様子を見に行けば、想像をはるかに超えるイケメンぶりにマジか、と声に出して驚いた。
白いテニスウエアを着てラケット振る姿はまるで白龍が舞うようで、男でも心抜かれる美しさだった。

予想外の展開に田淵はどうしたものかと考え、PCのモニターに目をやりながらも仕事の手はぴたりと止まっていた。
1か月なんてあっという間だし、まさか龍道グループの跡継ぎが、そう軽々しく本気で交際を進めたりはしないだろう。
田淵の家はバーやレストランを都内に5店舗構える小金持ちだが、その程度でも両親は兄貴の彼女にやたらうるさく干渉する。
龍道グループともなれば跡継ぎの相手を簡単に決められるはずがない。
と、そんな先まで推測し、田淵は透子がコーチとの交際1か月が終わった後でアプローチしたほうが効果的だろうという結論を導き出した。

「田淵君、なんかずっと固まってるけど、具合悪いの?」

PCから目をあげれば透子が心配そうな顔で田淵を覗き込んでいた。
その目をじっと見つめ返す。

「いや」

フェイクな付き合いが終わったら。
終わったら――そしたら僕と付き合おう、という言葉を田淵は胸にしまい、止まっていた分を取り戻すかのように高速タッチでキーボードを叩いた。
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