―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
その週のレッスン日は予想外に仕事にてこずり、レッスンに間に合う時間に会社を出ることができなかった。
田淵がいつものように「手伝うよ」と救いの手を差し伸べてくれたが、分担できる作業ではなかったので辞退すると、透子が出ないなら中級クラスを受けると帰っていった。

仕事を終えると、透子はぎり間に合いそうな7時からのレッスンを受けることにした。

スクールに到着し、急いでウエアを着替えコートに向かう途中で泉コーチに出くわした。
「振替?」と聞かれてうなずく。

「ここ、泉コーチのクラスじゃないよね?」

透子はこれから入ろうとしているコートを指さした。
スケジュール表に泉コーチの名前はなかったはずだ。

「病欠のコーチの代わり」と言いながら、泉コーチはポケットに手を突っ込む。
着信があったらしい。
スマホを取り出して名前を確認すると、「じゃあ、あとで」とスマホを耳に当てながら歩いていった。

1面でコーチ1人のこのクラスは、生徒は透子を入れて7名だった。
昼間のクラスと違ってみな20~40代の会社員らしく、そのうち3人は男性だったが、泉コーチの登場に「あっ」「おっ」と声が上がる。
「振り替えコーチが泉コーチなんてラッキーだね」と、隣の女性2人がラケットを抱きしめる。
さすが人気ランキング2位。
透子は泉コーチの爽やかスマイルを眺めながら、デスクワークでむくんだ足を屈伸した。
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