庵歩の優しい世界
001
……ど、どうしよう。
玄関を開けると、そこには横たわる男。
───有り体にいえば力尽き、ダイイングメッセージを残してそうな格好の男と、その人をツンツンする男の子。
おそらく5歳くらい。
異世界転生にしてはあまりにも現実的すぎるし、だからといってリアルにしてはちょっと物語くさい。
朝からその光景はきついぞ。私はただ郵便を取りに出ただけなのに、これはどういう類の歓迎なんだ。
寝ぼけた頭には到底おっつかないし、おっつかないどころか追い討ちをかけるようにスリープモードになった。
とりあえず一回、家に引っ込もうか。
見なかったことにして、やり直そう。さすればたちまち屍男とツンツンボーイはいなくなっているはずである。
決意し、踵を返そうとした私に、男の子が「どうするの?」と話しかけてきた。なかなかフランクな口調だった。
けど、話しかけないで欲しかった。
あなたは私に構わず、その男をずっとツンツンしていればいいのです……と言いそうになったが、そこはグッと堪えて。
堪えた結果。
「どうしようか」と私は苦笑いをうかべる。
ああ……しまった、いらんことに首を突っ込んでしまったみたいだ。
不覚である。
キョトンとこちらを見られても、可愛いだけでどうすればいいのやら、さっぱり分からん。
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