庵歩の優しい世界
あ、そうだ。いいこと思いついた。
私はニヤニヤしながら男の子を見て、横たえる屍をゆびさした。
「ところで、君がこの男を殺ったのかな」
「……え?」
男の子はポカンとする。無理もない、眠たい私がゆるいおつむで考えに考え、画策したことといえば、五歳児に向かってブラックジョークをかましてやろうという、ただそれだけだった。
非常に情けないが、5歳男児を不用意にからかっただけでは無い。一応理由はある。
運が良ければ、ヤバい姉さんだと判断され、キュートな男児は顔を引きつらせ、この男を引きずって遠くに行ってくれるかと思ったのだ。
……でもまあ、しかし、男の子はずいぶんと肝の据わるお人なのだった。
なるほどそういう見方もできるね、なんて言って男の子は笑った。その歳にしては大人びた笑みだった。
「残念ながら生きてるよ、息もしてるし。保険金はもらえないみたい」
五歳児ながらにしてその語彙⁉︎
「よ、よくそんな言葉知ってるね」
保険金の存在を知ってるなんて……。
最近の子供はませているというけど。
これは例外。
だって、「おませベクトル」がおぞましい方向に向いている!
それ故、どうにかしておませの類ではないと考えたい。
だったら神童ということにしておくか……。
だってこんな「おませさん」がそこら辺にゴロゴロいるとしたら、幼稚園内部はかなりの危険地帯になりかわる。
「保険金詐欺グループさくら組さん」
ニュースでそんな字面が表示されようもんなら日本も終わりだ、カオスすぎる。
派生していけば「劇場型詐欺グループもも組さん」なんてのも考えられるんじゃないか?
おまけにブラックジョークにブラックジョークを上塗する技術を心得ているとなれば、関心を通り越して唖然とする。
がぜん、唖然とした。
五歳男児など、鼻くそをほじくっては、バレないように机になすりつけるのが仕事だとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。