庵歩の優しい世界
この場で何が一番おかしいって、私の微々たる変化、それも、どうでもいいようなことを執拗に気にする珠手だ。
「今、絶対なんか隠した!」
「いや、だから何もないよ?」
「じゃあ、手、パーして」
「なんで?」
「確かめるから」
「い、いやいやいや」
もう、ほんと、いやいやいや………だった。
すると、珠手は恐るべき力で、後ろにやった手を引きずり出そうとしてきた。
半ば覆い被さるように、もう、それはびっくりするくらい熱意で私の手の中にある『もうこはんバンザイ』を見ようとしてくるのだ。
激闘だった。
「私の蒙古斑じゃないんです!」と見られてもないのに言い訳を口にしそうになった。
しかし結局、手のなかを見られることはなかった。
格闘は圧倒的に私が劣勢だった。
それは誰が見てもそう思うだろう。
珠手が馬乗りになって、私は手の中にあるそれのせいで、秘伝の殺戮チョップを封じられていたのだ。私に勝算はないように思えた。