庵歩の優しい世界
005
そんな風に回想しながら、私の家に来てそうそう買い出しに走ってくれた珠手の帰りを待っていた。
正直にいうと珠手が来てくれてよかった、
ただいまの私は平衡感覚が壊れたみたいに頭がふわふわするし、体を起こすのがやっとでキッチンまで歩行することができなかった。
だから水を取りに行こうにも動けない。
こりゃもうだめだと思ってたところに、珠手の登場。
いつものように軽い気持ちで遊びにきた珠手だったが、私にとったらスーパーヒーローのようだった。
珠手が鳴らしたインターホンに、ほとんど這うようにして、言葉通り死に物狂いで玄関を開けたのだった。
そんな瀕死の私を珠手はベッドまで運んでくれて、それだけでなく薬などを買うために近くのドラッグストアまで走ってくれた。
そんな神様のような友人の珠手の帰りを私はベッドに横になりながら待っていた。
その間も「これは死ぬんじゃなかろうか」と定期的に命の危機を感じていた。
風邪でこんなになるなんて思ってなかった。
まるで草刈りでもしてるような淡々とした感じで死神が斧を振るう。たかが風邪、されど風邪。死神はそう言いながら草刈りをしている。
そしてだんだんこっちに近づいてきた。
右に死神、左に三途の川。なんと贅沢なサンドイッチ。
今の私は「お、やってる?」くらいのノリで三途の川を渡れそうだった。つまりお迎えはすぐそこまで来てたんじゃないか。しかも、私の見た三途の川はミロでできていた。
「ミロだあ!」
私は嬉しさのあまり飛び跳ねながらそっちに向かった。無邪気な子供だった。目の前の誘惑に脇目も振らずに駆けた。
その時–––––––。