庵歩の優しい世界



「よっこらせ」


 5歳児にしては随分古臭い物言いだった。この世に生を受けて5年は嘘なんじゃなかろうか。実は50年経ってたりして、と勘ぐった。



さっきの無邪気さを思い出してくれ



(今から思えばあの可愛らしい掛け声も狙ってやっていたのかもしれない)


という思いを込めていかにも子供っぽい飲み物「ミロ」と振る舞った。



ココア派とミロ派の二大勢力のうち、私は断然ミロ派である。

あの人気を博したミロには、童心にかえらせる効能があると信じている。



「やっぱりこれ美味しいよねえ」


まぶしい笑顔で男の子は喜んだ。

よかった、ちょろいところもあって。これで晴れて君もミロ党の仲間入りだ。


「気に入ってもらえてよかった」


 男の子のかたわらで………童心どころか屍のように横たわる幸助の指先が、ピクッと動いた気がした。


そして、獣のような声でうううっと唸った。



「あ、おきた?」


男の子がミロを手に、横目で幸助を確認する。身内の目覚めをもってしてもミロを手放さないところはとても評価したい。


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