夢幻界〜Welcome to the world of dreams.〜
「部外者の方ですよね? これより先はご遠慮願えますか?」
「……は?」
「どなたかにアポを取ってのご入門なら、あちらの受付で先にゲスト用のカードを申請して下さい」
何を言ってるんだろう?
「あの、私はここの社員なんですけど……」
首を傾げながら、私は手にしたパスケースに目を落とした。
え……。
いつもきちんとそこに収まっているはずの社員証とIDカードがない。代わりにどういう訳か、高校生の頃に使っていた学生証が入っていた。
何で?
「……あ、すみません」
どうしよう。会社用のパスカード、家に忘れたのかもしれない。取りに戻っていたら、完全に遅刻だ。
だとしても、そこに留まっている訳にもいかない。仕方なくエントランスに向かってまた歩き出した。
……あっ!
私は"彼女"目掛けて慌てて駆け出した。タイミング良く出社してくれた和沙に「おはよう」と声を掛ける。
パスカードを忘れて入れない事情を、同僚のよしみで警備員の人に話して貰おうと思った。
しかしながら、和沙は私を見て僅かに首を捻った。眉を寄せて、後ろに一歩後ずさる。その挙動に疑問を抱くものの、先ずは手短かに用件を伝えようと話し掛ける。
「あのね、和沙。私今日」