【完結】君の全てを奪いたい〜俺の愛で埋め尽くす〜



 あの日以来、わたしは五月女社長のことを忘れられずにいた。あの日の夜、たった一度だけど、彼の腕にちゃんと抱かれた。

 だけど抱かれてる時は、錯覚した。五月女社長ではなく、最愛の愛おしい人に抱かれているのだと。……そうすることでわたしは、彼から愛情をもらっている。そして愛されているのだと、錯覚した。

 奏人と名前を呼んだことは確かにあった。だけど気付かぬふりをしてほしかった。

 そんなわたしに、五月女社長はあの日言ったんだ。「俺を奏人だと思っていいよ」と。

 それがどういう意味なのか分からなかったけど、きっと五月女社長という人間ではなく、奏人として接してもいいよということなのだろうか……。ただ、彼は同じ顔をしていたとしても、奏人ではない。……きっと、奏人じゃない。

 だからこそ、ちゃんと奏人としてじゃなくて、五月女社長として彼に向き合いたいと思っている。……たけど頭の片隅にある、奏人という存在が、わたしをだんだんと狂わせていくんだ。
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