エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
翌日の社長は至って普通だった。
プレゼンの最終確認を終えて出かけるまで、デートの件には一切触れることなく、なんなら夢だったんじゃないかと思うくらい普通だ。
私は朝起きてから今まで、デートのことで頭がいっぱいだったというのに。
一応言っておくけど、別に楽しみにしているわけじゃない。
そわそわしてしまうのは、予想外の社長の提案に驚いたからで……。
「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ。 あ、今日はどんな気分ですか?」
今日は私はお留守番だ。
そういう時は決まって、社長が帰社すると二人でケーキを食べる。
プチプチお疲れ様会みたいなもので、社長の外出中に私が買いに出かけるのだ。
「チーズケーキを頼むよ」
「了解です。 ………あの、社長」
あれ、うわぁぁ、私、何を聞こうとしたの!
デートのことですが…なんて言えないくせに!
ほら、社長がきょとんとしてる。
「えーと、が、頑張って…ください……」
ダメだ!社長が本気なら、これじゃあデートを期待しているみたい!
頑張ってプレゼン成功させて、私とデートしましょうね! みたいな。
社長はそこで顔色を変えると、ふっと微笑んで意地悪く言う。
「心配しなくても、プレゼンは成功させるよ。 陽葵とのデートのために」
わぁぁ! 本気だ、この人本気だった!
やだ、どうしよう。 急に緊張してきた。って、私、意識しすぎ! 落ち着け!
咳払いをして改めて社長を見やり、全力で平静を装う。
「お、お気をつけて!」
私の精一杯の言葉に頷いて、社長は出かけていった。