エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~




私が勤める会社は、大企業 鴻上グループの宿泊事業部門。 〝コウノカンパニー〟という社名であちこちにホテルや旅館を展開しているこれまたなかなかの大企業だ。

駅近の小さな居酒屋から一転、高層ビルが建ち並ぶオフィス街にやってきた。
いつ見ても高い建物内に入り、足早にエレベーターへ乗り込む。

さて、今日はどんな御用だろう。
どうせ明日のプレゼン資料が一枚足りないとか無くしたとか、そんなとこかな。
あの人に就いて一年が経つ。
はじめは急な呼び出しに苦労したけど、慣れてしまえばこうも余裕を持てるものだ。

なんていったって彼はこの会社のトップ。
そしてそんな我がボスのサポートが私の仕事。
なんだかんだ言って、呼び出されるのも夜八時前までだし、まあ許容範囲ってもんよ。


現在十九時半。
ちらほら電気がついていても、オフィスには人がまばらだ。
薄暗い廊下を進み、中が丸見えの透明なドアの前で足を止め、ノックする。
中でバサバサっとものが落ちる嫌な音を聞いてから自らドアを開けると、なんとも頼りなさげな男の姿があった。

「社長ーー! またこんなに散らかして! 一体何を探してるんですか!」

自分で言っててちょっと悲しくなる。
お母さんみたいなんだもん。 私未婚なんですけど。

「秋月! 待ってたよ。 明日のプレゼン資料が一枚足りなくてさー」

やっぱり。 ほんと雑なんだから。
ため息をこらえて、迷わずシュレッダーにかける予定の紙束をガサガサとあさる。
その中から今回の探し物らしき紙切れを見つけた。

「これじゃないですか?」

「お、本当だ。 助かったー。サンキュ!」

助かったーじゃないよ。 あなたこれ、粉々にしようとしてたんですよ! 危機感!
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