エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
朝食を食べ終えると、アイロンを借りて洋服にかけていく。
ふと、いつもと違う香りがした。
「春希さんの匂い……」
って、変態か、私は!
彼の家で洗濯してもらったんだから同じ匂いがするのは当たり前じゃない!
気を取り直して手早く着替えを済ませる。
リビングルームに戻ると、社長がタブレットを操作しながらコーヒーを飲んでいた。
傍らにはもうひとつマグカップが置かれている。
「コーヒー飲めるか?」
「ありがとうございます。 いただきます」
優雅な朝だなぁ。
誰かに朝食を作ると自然に早起きをするから余裕ができるんだ。
実家を出て一人暮らしを初めてからこんなに穏やかな朝を迎えたのって、初めて。
私たちは八時前にマンションを出た。
自然と一緒に出勤というのが落ち着かない。
今まではこんなことなかったもの。
そもそも家の方向も真逆なのに仲良く出勤なんかしていたら、社員になんて思われることか。
やむを得ないとはいえ、実際私は昨日、社長の家に泊まったわけで!
なんて気にしているのは私だけなのだけど。
隣を歩く社長は何ら変わりない。
マンションを出てからほんの数分で会社に着いてしまった。
「会社に近いって良いですね。 起きる時間も家を出る時間もギリギリを攻められる」
「陽葵はギリギリまでだらけていたいタイプか」
「そう言われると聞こえが悪いですけど、否定はしないです」
「まぁ、俺もそのために近くにしたんだけど」
うん。そうだと思った。
らしい理由にくすっと笑う。
「私、今日携帯ショップに行ってきます。 あとアパートにも帰って、大家さんに部屋を開けてもらって。 お財布は惜しいけど、もう諦めようかなー。 言ってもポイントカードくらいしか入れてないんですよね」
警察から連絡もないし、今日も社長の家にお泊まりなんてできない。
本当は昨日もそうするべきだったのだけど、ご厚意に甘えてしまった部分がある。
「てことで、本日は定時で上がらせ…て――」