エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
ふと前方に見つけた人物に足が止まる。
会社の前に立っていたその人は顔を上げ、こちらに向かってくる。
自然と体を仰け反らせる私に気づいた社長が、さっと前に出た。
庇うように私を背にし、岩倉くんと対峙する。

「おはようございます」

多分、社長はものすごい怖い顔をしているのに、岩倉くんの声音は揺るがない。
堂々としたその態度は何を意味しているのか測りかねていると、社長の背中越しに彼が頭を下げるのが窺えた。
社長もそれには驚いたようで、肩が少しだけ動いた。
そして私を背から隣に立たせると、大丈夫だと言うように微笑んだ。

「秋月陽葵さんには申し訳ないことをしました」

「岩倉くん…」

「反省しています。 そして今後はもう二度と近づきません。 鴻上社長、どうかお許しを――」

ん? 最後の台詞、何?
なんかよく見れば岩倉くん震えてない!?

「陽葵に近づかないと約束するなら、俺も君に手出しはしない」

「はい。 ありがとうございます……」

え、え、ちょっと!
岩倉くん泣いてない!?

「し、社長…? 一体、彼に何を――」

「陽葵は知らなくて良いことだよ」

絶対零度とも言える声で言われ、ぶるっと背筋が震えた。
一晩の間に何があったのか。
私は言われた通り、知らない方が良いのだと悟った。

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