エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
「相良。 これ、カバン」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、元気でな」
「う、うん。 岩倉くんも……」
彼はふらふらとおぼつかない足取りで去っていく。
その背中がひどく小さく見えて、この間の彼からは想像もつかない姿だった。
これは、一件落着ってことで良いのかしら。
「荷物…戻ってきました」
「良かったな」
社長は満面の笑みでそれだけ言って歩き出す。
この結果は、社長にも私にも、岩倉くんにとっても良かったと、思いたい。
カバンの中身は全て無事だった。
携帯は充電が無くなっていたけれど、お財布も家の鍵も戻ってきた。
警察にもその旨を伝え、これで本当に終わったと言える。
と、胸を撫で下ろしたのも束の間。
「ねぇ、二人、今朝一緒だったって」
「えぇ? なんで? 同棲してるってこと?」
「うそー。 だってこの間は違うって……」
社内は私と社長の噂で持ち切りだ。
想定はしてたけど、こうもあからさまに噂されると堪えるなぁ……。
社長はまっったく気にしていないのが逆に怖い。
噂になってることすら知らないんじゃないかってくらい。