エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
ずっきゅーーん。 と音がした。
心臓がものすごいスピードで脈打つ。
口をパクパクさせていると、社長はなんてことない顔で言うのだ。
「陽葵の彼氏って立場じゃ駄目か?」
社長が目を細めて私を見つめる。
その射貫くように鋭くて、でも優しさを帯びた視線に耐えられず、顔が真っ赤に染まるのがわかる。
彼氏…。
どうしてそんなに簡単に言えてしまうのだろう。
好きって、そんなに簡単でいいの?
どんなに好きでも、別れる時はくるかもしれないのに。
この人は別れなど微塵も想像していないのかもしれない。
けれど私はどうしても考えてしまう。
ここで繋がってしまったら、離れる時に苦しいじゃない。
今のこの距離でいたらダメなの?
言うなれば、友達以上恋人未満ってやつよ。
あ、でも。よく考えたらキスされてるんだ。
これってもう、友達の域じゃないのかな。
『デートしよう』
『陽葵のこと、もっと知りたい』
『俺の彼女になるか?』
『俺たちは健全なカップルだって思われた方が得策だろ』
――『好きだ』
今までの社長の言葉が一気にフラッシュバックする。
「社長……」
私がそう呼んだのは、どこか一線を引いていたからなのかもしれない。
「私を……一生離さない自信がありますか?」
一度くっついて、離れる時はどれだけ虚しいだろう。
それでなくても、上手くいかないことがたくさんあるでしょう?
変な質問だなぁと心の中では思うけど、彼の答えを聞かなければ、私は踏み出せない。
こんなこと、普通聞かないだろう。
社長はきょとんとして、それからふわりと優しく微笑む。
「あるよ。 何があっても陽葵を離さない自信」
ストンと胸に落ちてくるようだった。
彼は本気だ。 私に本気で向かってきている。
それなら私も、本気で答えなければならない。
その時まで、待ってくれますか…?
「少し、考えさせてください」
その日確かに、私たちの関係は動き出していた。