エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~

「陽葵。 あんまり重く考えなくていいと思うよ。 社長、言ってくれたんでしょ? 〝何があっても離さない〟って。 そんな台詞、生半可な気持ちじゃ到底言えないと思う。 彼を信じてみてもいいんじゃないかな」

茉梨香は私の顔を覗き込みながら穏やかに言う。

「陽葵が社長のこと、好きならそれでいい。 両想いって、なかなか奇跡みたいなもんなんだよ。 まぁでも、私はいつでも陽葵の味方だからさ。 答えが出るまで愚痴でも何でも聞くし、どんな答えでも受け止める」

そんなに格好よくて逞しいこと言われたら、うっかり泣きそうになっちゃう。
強い味方だなぁ。

「ありがとー、茉梨香ーー!」

「よし! もいっかいカンパイ!」

私たちはジョッキをかち合わせた。


「そういえば。茉梨香の方はどうなの? 彼氏と」

「ああ〜。 なんかねー、プロポーズされたわ」

「ええ!? そっちこそなんかすごいことになってるじゃない!」

私は絶叫してしまう。
ここが居酒屋じゃなかったら追い出されてたわ。

「保留にしてもらったんだけどさぁ。 彼、浮気してるっぽいのよね」

淡々と言う茉梨香だけど、それって大事件じゃん。
プロポーズされたけど相手は浮気してますって……。

「でも決定的な証拠もないし、問い詰めることもできない」

「そうね……」

「ごめん、こんな暗い話!」

「ううん。 茉梨香も一人で抱え込まないで! 私にできることは…するし」


なんでも、とは言わなかったよ、私。
本当は言いたいけど。
全力で茉梨香を受け付ける態勢でいきたかったんだけど!


「ありがとう。 優しいなー、私の愛しの陽葵ちゃんは」

目を細めて私の頭をグリグリ撫でる茉梨香。

落ち込んでいる素振りは見せないけれど、私に話したってことは悩んでいたんだ。
恋多き彼女だけど、意外と不器用なところがある。
浮気疑惑があってもプロポーズを保留にするくらいには、彼のことが好きなのだろう。

当人同士の問題だし、下手に口出しはできないけれど、彼女が助けを求めてきたなら全力で応えようと心に決めた。



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