エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
五、俺は振られたのだろうか
『少し、考えさせてください』
秋月陽葵はそう言った。
*
初めて彼女を見かけたのは、新入社員研修の時だ。
初々しい新入社員が何千人といる中、俺の目に一番に飛び込んできたのが秋月陽葵だった。
すらりと伸びた背筋に垂れる緩くウェーブのかかった栗色の髪。
シワひとつない真新しいスーツを身に纏う姿こそ新人らしさを感じられたが、凛とした表情と芯の強そうな瞳に惹かれたのを覚えている。
俺はその時の秘書だった男、佐倉に尋ねた。
ちなみに佐倉は現在俺の専属運転手だ。
子供が産まれるのと同時に、何かと忙しい秘書は辞めることが決まっていた。
『三列目、右から五番目の彼女について教えてくれ』
『珍しいですね。 社長が新入社員に興味を示すなんて。 しかも女性とは』
佐倉が不思議がるのも無理はない。
俺は今まで仕事一筋で生きてきた。
仕事以外に目を向けてみろ。
俺の地位と金とルックスに群がってくる女がこれでもかと溢れかえっているからな。
『名前は秋月陽葵さん。 Y大学出身、上京と同時にアパートにて一人暮らし――』
『部署は?』
『総務部人事課です』
『変更だ。 秋月陽葵には俺の秘書をやってもらう。 佐倉の次も決まってなかったし、名案だろう』
『かしこまりました』
佐倉は頭を下げると足早に部屋を出ていく。
俺の我儘を総務に伝えにいくのだろう。
彼には度々こうして無茶を頼んできた。
そのどれにも顔色ひとつ変えず対応する佐倉は秘書として適任で、俺もやりやすかった。
そんな彼がいなくなるのは心もとなかったが、きっと彼女なら同様に、またはそれ以上に応えてくれるだろう。
俺の中にはそんな確信があった。