エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
六、最初で最後の


日曜日のピクニックからはや二週間が経った。
つまりは、プロポーズを保留にしてもう二週間。


私って、性格悪い。

社長が得意げに広げてみせる、〝ありがとう〟と書いた紙。

どう考えても、たまたまそばに置いてあったマジックペンを使ったに違いない。
けれどその文字は綺麗で、そして悩みに悩み抜いた一言なのが伝わってくる。

きっと、こんなお返事をもらえただけでファンの子は喜ぶだろう。

「…別に、わざわざ私に見せる必要ないんじゃないですか」

それなのに私は、なんて可愛げのない意地悪なことを…!
だいたい、私は社長に対してこんなこと思う資格なんてないというのに。

手紙を書いて返事をもらえるファンの女の子が羨ましい。
というかそんな生易しいもんじゃない。

ファンの女の子を喜ばせるようなことしないで!

って。
プロポーズを保留にしてる分際で何を考えてるんだか!

……堂々とやきもちを妬ける立場。
私はやっぱり、それを望んでいるのだ。
ただ拭えない不安?
それだけは残ったまま。


「陽葵」

不意に社長に呼ばれる。
なんかこの人、会社なのに朝から名前呼びなんですが。

「この間の――」

その時スマホが鳴った。
うっかり、ポケットに入れたままにしていたみたいだ。
電源を切ろうとスマホを取り出すと、画面に映し出された名前に一瞬嫌な予感がよぎる。

茉梨香だ。

彼女も仕事のはずだし、だいいち、私が仕事中なの分かってて電話をかけてくるようなこと、しないだろう。

私は社長に断りを入れる。
彼は了承してくれた。

電話に出ると、途端に切羽詰まった声が耳に飛び込んでくる。
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