エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
社長は三十分もしないうちに戻ってきた。
何食わぬ顔で帰ってくるんだもん。
凄いです、社長。
きっと、岩倉くんの時みたいに知らなくていいことが起こったんだと納得していた。
「もう大丈夫ですよ。 茉梨香さんに近づくことはないと思います。 それでもまだ癒えない部分があるでしょう。 今日はご自宅までお送りします」
「本当にありがとうございました。 今度改めてお礼させてください」
「いえ、そんな、お気遣いなく」
つらつらと紳士的な言葉を並べる社長は、ビジネスモードなんだと気づく。
茉梨香と社長が会話する絵面は見慣れなくて、ちょっと面白い。
私たちはまたまた佐倉さんの運転によって茉梨香の自宅マンションに向かった。
プライベートな内容であちこち回ってもらって、佐倉さんには頭が上がらない。
「陽葵、ありがとう」
「ううん。 ホントに一人で大丈夫? 怖くない?」
「大丈夫だって。 社長さんも運転手さんにも、ご迷惑おかけしました」
社長と佐倉さんは会釈を返す。
「お気をつけて」
茉梨香は深々と頭を下げて、マンションに帰っていった。
ふぅ。
なんだか気が抜けた。
あんなに弱った茉梨香は初めて見た。
疲れたけど、今から仕事に戻らないといけない。
「社長、お世話かけました」
「茉梨香さんが無事でよかった」
「はい。 本当に」
社長は穏やかに笑う。
その優しい優しい笑顔にきゅんと胸が鳴いた。
社長の笑った顔が好きだ。
面倒くさがりやなのに手紙の返事を書いた社長のことも褒めてあげたい。
あの味気のないレターセットも、社長らしくて慕わしい。
多分、貰っていた手紙を全部読んだんじゃないかな。
社長室に置いてあるお菓子の缶の位置が変わっていたから。
私に読めって怒られたの、思い出したの?
もしもそれで読もうと思ったのなら、そんなところが可愛い。
今日みたいに頼りになる社長は、私を安心させる。
ちょっと強引でも、彼とならどんなことでもいいって思える。
好きってこういうことなんだろう。
その人のことが好きで好きで堪らなくなった時、別れる未来なんて考えられないくらい好きで、離れたくないって思った時。
きっとそういう時に、人と人は結ばれる。
――そうでしょう? 春希さん。