エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
「午前半休をもらってるから、まだ時間あるな。 半休しかとれなくて、ごめん」
「いいえ。 大丈夫です」
「昼飯食ってから行くか」
「春希さん。 少しお時間いいですか?」
私が言うと、社長はぽかんとして、それから佐倉さんに先に会社に帰っているようにと伝える。
「店、近くにあるから。 歩きながらでいい?」
「はい」
私の気持ちを全部伝えようと決意したところで、今朝茉梨香から電話が来る前に社長が何か言いかけていたことを思い出した。
「えっと、まず…社長、朝、何か言いかけましたよね。 それが気になって 」
心臓がどきどきしている。
緊張しているんだ。
時間稼ぎのつもりで、先に社長の話を聞かせてほしい。
意気地無しでずるくてごめんなさい……。
「え…あぁ。 あれね。 うん」
珍しくしどろもどろになる社長を見上げる。
「この間の、プロポーズのことなんだけど。 一旦、忘れていいよ」
え――? 忘れる?
「陽葵、俺が上司だから断りにくかったかなーと思って。 陽葵にだけ悩ませたくない。 だからとりあえずあれは忘れて――」
「そんなこと、ないです!」
自分でも思ったより大きい声を出してしまった。
私の話を聞いてもらう前に、社長が離れていきそうな気がした。
社長、勘違いしてる。 それは紛れもなく保留にした私に責任があるんだけど。
だからこそ、ここで弁明しなきゃ。
そう思うのに、上手く言葉にならない。
どう言えばいい?
どうすれば伝わる?