エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
いつも連れてきてもらうお店は、オフィス街から少し離れてまた雰囲気が変わる路地に入口がある。
階段を降りて地下にある大人な雰囲気のバーは、社長とじゃないと絶対に来られないと思う。
お互いの顔は距離が近くないと見えないくらいの暗闇で、淡い光を放つお酒を背にバーテンダーがいる。
すっかり常連の私たちは席に着くとすぐに一杯目のお酒が出され、小さく乾杯をして楽しい時間のスタートだ。
「本日からのカクテルがありますよ」
「ではそれを二杯」
一杯目を飲みながら次のお酒を注文する社長。
新作のカクテルとは、楽しみだ。
「そういえば。 今日は俺に呼ばれるまで、何をしていたんだ?」
「友達と居酒屋でビールを。 おかげで一杯しか飲めませんでしたが」
「はは。 それは悪い事をしたな」
本当に悪いと思ってるんだか。
ま、こうしてお酒をご馳走になってますので、いいですけど。
茉梨佳との埋め合わせは明日にでもしよう。
「秋月は、飲んでても酒臭くないよなぁ」
「なんですか、急に」
社長のしんみりした口調がおかしくてくすくす笑うと、突然彼の整った顔が近づいてきた。
驚いて硬直する私のスーツの匂いをふんふん嗅いでいる。
なに、もう酔ってるの?
「臭いですか?」
「いいや。 超いい匂い。 俺が好きなタイプ」
ドキッとした。
社長のいつもと違う雰囲気に呑まれてしまいそう。
恋愛経験皆無の私に、ムード攻撃は有効なのですよ。
「今、キュンとしただろ」
「はあ? してません〜」