エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~

社長が帰社すると、お母様はそそくさと帰っていった。 お父様が今も住んでいるご自宅に。
なんでも、今回の帰国は社長から『結婚を前提に付き合っている人がいる』っていう一報を受けたかららしく、明日の飛行機で帰らなければならないとか。
社長は『まさか飛んでくるとは思わなかった』なんて苦笑いしていた。

でも、私はお母様にも会えて、楽しい時間を過ごせて良かった。
別れ際、次会うときは結婚式かも〜と言われて赤面したのは言わずもがな。
ぶわわっと脳内に広がる、社長のタキシードと私のウェデングドレス。
本当に結婚を視野に入れているんだもん。
急に現実感が増してきて参っちゃう。

けれど多分、それはまだまだ先のお話。
社長、この前言ってたもん。

『まずはお互いのこと、じっくり知っていこう。 些細なことでも……陽葵の全部、知りたい』

それには私も同意見だ。
……全部って、どんな? なんて恥ずかしいことは考えないようにしなきゃ…。

お忙しいだろうけれど、それまでに、お母様ともまた会えたらいいな。
お父様やお兄様にもご挨拶したい。
私の家族も社長に紹介するんだよね。
色々考えていると、今から舞い上がっちゃう。


「陽葵、疲れただろ」

「いいえ、全然」

「強烈だったろ、母さん。 突撃訪問もいいとこだ」

「楽しかったです。 社長の小さい頃の話とかたくさん聞けて。 私的には、五歳の時お兄さんにアイス食べられて拗ねて、隣町まで家出したって話が一番好きだなぁ」

「おい、やめろ」

恥ずかしいのか、そっぽを向く社長をくすくす笑う。
可愛いんだもん。ちっちゃい社長。
結構やんちゃ坊主だったみたいだけど、さすがに五歳で隣町まで家出はびっくりしたよ。
続きがあって、帰り道が分からなくなって泣いていたちび春希さんはお巡りさんに保護されたらしい。
今度その時の写真を見せてくれるって、お母様が言っていた。
ふふ、楽しみ。


「さ、仕事に戻りましょー!」

「調子のいいやつめ」

へへ。 だって、私は今幸せを感じているのです。
私は社長が好きで、社長も私を好きで。
私が信用しなかった〝ずっと〟が目の前に在る。
きっとこの先も社長は、私にたくさんの幸福を与え続けてくれるんだろう。

私だって負けませんからね。
秋月陽葵、一生かけて社長を幸せにします。


だから春希さん。
私を離さないでね。




~END~

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