ピン球と彼女

卓也(たくや)ー、部活行こーぜ!早く早く!」

「応、ちょっと待っとけ」

部活の仲間に呼ばれ、ラケットを手に取る。

いつものように、手から滑り落ちそうになり、強くグリップを握った。

「ったく、先に準備しとけよなー!」

「ごめん」

無理矢理笑ってみせた。

行きたくねぇなぁ……。

サボってやろうと思ったのに。
  
俺のこと誘ってくれるのはありがたいけど、正直、ありがた迷惑なんだなぁ。

憂鬱が足の動きを鈍らせ、表情筋を固まらせた。 

カッコカッコ

軽く、明るい音が不快だ。
  
白いピン球が真っ直ぐにコートに入る様子も、嫌いだ。

キュッキュッ、とシューズが床に擦れる音、独特な木の匂い、ラバーの触り心地。

卓球の、全てが嫌いだ。

何で嫌いか?

嫌いだからだよ。

好きなものに理由なんて、いちいち必要かよ?

それと、同じだ。

ああ、今日も早く終わればいいのに――。
  
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