ピン球と彼女
「えー、それでは、今度の試合に行くメンバーを発表するー」
先生の、地響きでも起こりそうな太い声が響く。
「川俣ー」
あー、ったく、面倒臭せぇ。
どーせいつメンだろ?
「佐野ー」
帰ってゲームをしたい渇望に気持ちが疾った。
部活だって、勉強だって、恋愛だって。
何もかも中途半端な俺には、そういう上のほうの話は関係無い。
「橋田ー」
だから、帰らせろよ。
理不尽な不満を、教師にぶつける。
でっぷりと出ている腹を意味も無く睨んだ。
「五十嵐ー」
お前、運動部の顧問なら痩せろよ。
指導できねぇだろーが。
「沢村ー」
さっさと発表しろや、鈍間。
語尾伸ばさなくていーんだよ。
「霧矢ー」
ああ、ゲームしてぇ。
俺は、試合なんて興味ねぇんだよ。
次第に苛つきが蓄積され、語気が荒れまくる。
自分からあとどれだけ理不尽な苛つきが出てくるのか計り知れなかった。
「穂積ー」
よし、あと一人。
もう、スタートダッシュの準備をしていた。
「で、最後は、」
「球田」
「え?」
まさか自分の名前が呼ばれるとは思わず、間抜けた声が出た。
「お、俺っすか?」
「ああ、そうだ」
「でも俺、殆ど部活来てないっすよ」
「だからだよ。じゃあ、そういうことだからな、球田」
だからだよ、という教師の言った言葉の意味が分からない。
俺なんかより、もっとやる気のある奴いるじゃねぇか、と怪訝に思う。
「球田ー!良かったじゃねぇか!」
「あ、ああ、まあな」
曖昧な返事と、中途半端な笑顔を作った。
ああ、面倒臭ぇ。
終始思考から消えることの無かった言葉を、帰るまでずっと唱えていた。