ピン球と彼女
や、やっちまった……。

周りは黄ばんだ壁ばかりでこれといった特徴が無い。

こういうときに限って、スマホもねぇんだ。

俺が硬直状態でいると、突然、がチャリ、とドアが開き、女が出てきた。


「……でさ〜!」

「え〜?マジ〜?」
 
うわ、最悪。

甲高い女の声に嫌な顔を繕うとも思わなかった。

俺、女苦手なんだけど……。

て、え?

ドクン、と心臓が跳ねた。

すぐさま、女に目を向ける。

知り合い、では無い、な。

一人は、長い黒髪の、小柄で、いかにもお人好しそうな女。

もう一人は、この場所と同じ、これといった特徴の無い女。

だが、これを仲間がみると、「可愛い……」と悶えそうな、整った外見はしている。

……。

俺の心臓が何に反応したか分からない。

だけど、こいつらもユニホーム着てるってことは、試合に出るってことだよな……。

それで、今ここから出てきたってことは、そこが女の更衣室、だと仮定しよう。

それならば、それより前の部屋が男の更衣室なんじゃないか。

一つ前のドアの前に立ち、ノックをする。

……返事は無い。

恐る恐るドアを押すと、暗闇が差してきた。

「すみませーん」  

……誰もいないようだ。

だが、ロッカーが多く、男物の服が散らばっていることから、ここが更衣室だと確信した。

「ったくよ」

更衣室、分かりにくいわ!

下手したら、女の更衣室と間違えるぞ?

「……ダッセ」

ユニホームを広げて、思わずつぶやいてしまった。

これなら、俺が着てきた寝間着のほうがマシだ。

いやいやながら手を通し、更衣室を後にした。
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