ピン球と彼女
「おー、似合うじゃねぇか、卓也!」

バシ、と背中を思い切りど突かれた。

手加減という言葉を知らなそうな程、強かった。  

「……痛い」

「おー、すまんすまん」

ガハハ、と下品に笑った。

「今な、五十嵐が試合してんだ。ほら、あそこの○☓中学の」

汗の粒が体育館のライトに煌めかせられながら、散っていく。

相手のユニホームを見て、思わずあっ、と声を漏らした。

「どうかしたか?」

「あ、いや、何も……」

しどろもどろに返し、視線を戻す。

あのユニホーム、さっきの女達と同じじゃねぇか。

確か、○☓中学とか言ったな……。

でも、そんなとこに俺の知り合い、いたか?

初めて聞く名前だし……。
 
やっぱり、あの女達に何かあるのか?

「おし、いけ!スマッシュ!よし!ナイス!って、お前それ返すか!?落ち着け、五十嵐!ああ〜、ドンマイドンマイ!いけるぞー!」

暑苦しっ。 

なんて、思ってしまう俺は、心が汚いのだろうか。

それとも、冷めてるのか。

「お、卓也、そろそろお前の出番だぞ。頑張れよ!」

ドン、と背中を突かれる。

その暑苦しさで速度を保ち、試合の台まで向かう。

ピン球が跳ねる音、シューズが擦れる音。

嫌い、というより、何かが疼いている感じのほうが強かった。


     "キュウスケ"

「え?」

振り返ると、あの平凡女とすれ違うところだった。

キュウ、スケ?

だが、あの平凡女、唇を動かしている様子は無い。

……俺の聞き間違いか。

だが、ソワソワし、何だか落ち着かなくなってきた。

あの、柔らかい声。

優しい響き。

温かさ。

そして何故か浮かんだ、緩く曲げられた口もと。

お前、誰だよ――。

頭を抱えていると、相手が怪訝そうに俺を見ていた。

待ってるんなら、声くらいかけろよ、と言いたいところだったが、ぼーっとしていたのは俺のほうだ。

「すみません。少しぼうっとしてしまって。よろしくお願いします」

礼をした後、相手が打ち上げたピン球にまた心臓を跳ねさせられ、強気なレシーブを打った。
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