秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
『藍葉さんはやってほしいことを先回りしてくれるから、みんなすごく助かっているんだよ。大きな会社で営業を経験していただけあるね』

というのは社長のお言葉。こんな褒められ方をされると、多少の残業でも頑張ってしまう。……社長は、人を転がすのがうまいのかもしれない。

そして今日も案の定、残業を頼まれた。営業の男性社員が個包装のチョコレートクッキーをひとつ、私のデスクに置く。差し入れという名の賄賂だ。

「藍葉さん、ごめん。この見積書、今日中になんとかなる?」

「わかりました。十八時までには終わると思います」

「本当に助かるよ! いつもありがとう! それ、食べてね♪」

さっそく包みを開け口に放り込んで、うまいこと乗せられちゃったなぁと小さなため息をつく。

私の定時は十七時半。三十分の違いではあるのだけれど、このあとに控えている晴馬のお迎えやご飯、お風呂、寝かしつけが、全部三十分ずつうしろ倒しになると考えると憂鬱だ。

けれど、晴馬が熱を出すたびに快く休みをくれる社員みんなのことを思うと、これくらいは力にならなきゃなって思う。

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