秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
私は帰り道の途中にあるお弁当屋さんで足を止めた。独身時代からよくお世話になっているお店だ。

店頭にメニューが張り出されていて、表の窓口から注文すると、うしろの厨房でホカホカのご飯とおかずを詰めてくれる。

「えーと……生姜焼き弁当と、野菜ハンバーグ弁当ひとつずつ」

会計を済ませお釣りを受け取ると、他のお客さんの邪魔にならないようにベビーカーをレジの脇に待避し、お弁当ができあがるのを待った。

ベビーカーが走り出してしまわないようにハンドルを押さえながら、小銭をしまおうと財布を開いたとき。

百円玉が手からこぼれ落ち、地面をころころと転がっていってしまった。

「あっ……!」

百円玉の行方を目で追いかけていると、道の向こうから歩いてきた男性の革靴にこつんと当たって止まった。

大きなスーツケースをひく男性。海外旅行にでも行くのだろうか? あるいは帰ってきたところ? ブラックのジャケットにライトグレーのデニムを履いていて、背がかなり高い。

男性が足を止め、百円玉を拾おうと屈んでくれる。私は慌ててベビーカーを押し、男性のもとに近寄った。

「すみません、ありがとうございます!」

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